相続が発生すると、遺産をどう処理するかが大きな問題となります。
相続放棄は、亡くなった方の借金を相続することになりそうなときなどに有効な選択肢ですよね。
しかし、相続放棄を人生で何度も経験して慣れているという方は少ないでしょう。
相続放棄の手続きを行うにあたって、例えば以下のようなことでお困りではないでしょうか?
- 相続放棄の手続きの流れと注意点について知りたい
- 相続放棄は自分で手続きが出来るのか知りたい
- 相続放棄を専門家に依頼した方がいいのはどんなときか知りたい
この記事では、相続放棄の具体的な手続き方法や注意点について、初めての方へもわかりやすく解説しています。
相続放棄の手続きで思わぬトラブルに見舞われないためにも、ぜひ参考にしてください。
相続放棄とは?
相続放棄とは、相続人が亡くなった方(=被相続人)の権利や義務を一切受け取らないという選択をすることです。
相続放棄を行うと、法律上は「最初から相続人でなかった」とみなされます。
そのため、プラスの財産(預貯金や不動産など)もマイナスの財産(借金や保証債務など)も引き継がれません。
相続放棄が選択肢に挙がるのは、以下のような場合です。
- 借金や保証債務を相続するリスクを避けたい
- 相続争いに巻き込まれたくない
ちなみに相続放棄以外の選択肢には、以下があります。
- 単純承認:全ての財産を相続する
- 限定承認:プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ
限定承認を行うと、例えば借金があってもプラスの財産の範囲内で弁済できます。
すべての相続財産の把握が困難なときに有効です!
また未成年者は単独で相続放棄の手続きができないので、親権者などの法定代理人が行います。
相続放棄の手続きの流れ
相続放棄の手続きは、基本的に以下の流れで行います。
- 亡くなった方の財産調査を行う
- 必要書類を準備する
- 裁判所に必要書類を提出する
- 裁判所から届く「照会書」を返送する
- 裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届く
順番に見ていきましょう。
1.亡くなった方の財産調査を行う
相続放棄の手続きに入る前に、まずは亡くなった方の財産調査を行います。
一度相続放棄をすると原則として撤回は認められません。
そのため、亡くなった方の財産がどのくらいあるのかを慎重に調査する必要があります。
相続財産 | 問い合わせ先 | 確認すること |
---|---|---|
預貯金 | 取引のある金融機関 | 預貯金の残高 |
借金 | 取引のある借入先機関 | 借入残高 |
不動産 | 不動産がある市区町村役場 | 登記事項や評価額 |
有価証券 | 取引のある証券会社 | 有価証券の残高 |
すべての財産を把握するために、信用情報機関(借金を調査)や証券保管振替機構(有価証券を調査)に開示請求をすることもできます。
亡くなった方の財産を調査することは、相続放棄をするかどうかを判断するためにとても重要です。
以下のような場合は、弁護士など法律の専門家への依頼をお勧めします。
- 相続財産を把握しきれない(遠方に住んでいて調査する時間が取れない、財産の手掛かりが見つからないなど)
- 相続財産に、素人では評価額の判断が難しい不動産が含まれている
- 相続人間でトラブルになりそうな遺言書がある
2.必要書類を準備する
相続放棄の手続きには、以下の書類が必要になるので準備しましょう。
- 相続放棄申述書
- 亡くなった方の住民票除票または戸籍の附票
- 相続放棄をする方の戸籍謄本
いずれも裁判所のホームページや役所の窓口で入手が可能です。
この他に、亡くなった方と申述する人の続柄によって追加で必要となる書類があるので注意しましょう。
例えば、亡くなった方の配偶者が申述する場合は「亡くなった方の死亡の記載がある戸籍謄本」が必要です。
詳しくは、裁判所のホームページを参照してください。
費用は申述する方にもよりますが、おおむね3,000~5,000円程度です。
印紙代 | 800円 |
郵送代 | 500円前後 |
亡くなった方の住民票除票または戸籍の附票 | 1通300円 |
相続放棄をする方の戸籍謄本 | 1通450円 |
亡くなった方の死亡の記載がある戸籍謄本 | 1通750円 |
3.裁判所に必要書類を提出する
必要書類の準備が整ったら、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。
郵送でも提出が可能です。
提出前に、必ず書類のコピーを取っておきましょう!
後ほど届く照会書に回答する際に、申述した内容と矛盾がないようにするためです。
4.裁判所から届く「照会書」を返送する
およそ7~14日程度で、家庭裁判所から「照会書」という質問状が届くので、回答を書いて返送しましょう。
照会書による確認事項は、以下です。
- 本当に自分の意思で相続放棄をするのか
- 相続放棄が認められなくなる行為をしていないか
相続放棄が認められなくなる行為とは、
例えば亡くなった方の財産を勝手に消費することなどが該当します!
5. 裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届く
およそ7~14日程度で、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届きます。
これで、相続放棄の手続きは完了です。
相続放棄をしたことを債権者などに証明する必要があるときは、
裁判所に「相続放棄申述受理証明書」の発行を申請しましょう。
相続放棄手続きの注意点
相続放棄の手続きで注意したい点は、以下です。
- 申請期限は3ヶ月以内
- 書類不備への対応が必要
- 照会書の回答が必要
- 相続放棄の申請が却下されることがある
- 次の相続人とトラブルになる可能性がある
- 財産の保存義務が生じる可能性がある
ひとつずつ確認していきましょう。
申請期限は3ヶ月以内
相続放棄の申請期限は「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内」です。
この3ヶ月間のことを「熟慮期間」といいます。
相続放棄をするかどうかの調査や、必要書類や資料の準備には思ったより時間がかかることがあります。
3ヶ月を過ぎてしまうと、原則として相続放棄の申請はできないので注意が必要です。
ただし、以下のような場合は熟慮期間の伸長を申請できます。
- 亡くなった方の財産状況が複雑で、調査に時間がかかる
- 他の相続人と疎遠で連絡がつかない
- 役所の都合により必要書類の準備に時間がかかる
また、熟慮期間が過ぎていても申請が認められることがあります。
例えば、きちんと財産調査をしたにも関わらず、亡くなった方の借金が熟慮期間を過ぎてから判明した場合などです。
熟慮期間の例外措置は、必ず裁判所から認められるわけではありません。
例外措置を取る必要が生じた場合は、弁護士などの法律の専門家に相談することをお勧めします。
書類不備への対応が必要
相続放棄に必要な書類を家庭裁判所に提出した後、書類に不備があると裁判所から確認の連絡が来ることがあります。
場合によっては呼び出しを受けたりする場合もありますが、手続きを進めるためにはしっかりと対応しなければなりません。
照会書への回答が必要
家庭裁判所から届く「照会書」の内容は個々の事例によって様々で、ときには法的観点からの判断が必要です。
弁護士などの法律の専門家でなければ、どのように回答したらいいかわからず困る場合があります。
相続放棄の申請が却下されることがある
相続放棄は申請すれば必ず認められるものではなく、まれに却下されることがあります。
いったん却下されると、再び申請するにはそれなりの理由が必要になります。
何らかの事情で不安がある方は、申請する前に弁護士などの法律の専門家に相談しましょう。
次の相続人とトラブルになる可能性がある
相続放棄は、他の相続人の許可を得ることなく単独でできます。
相続放棄をした後に、次の順位の相続人に連絡する義務もありません。
しかし次の順位の相続人とトラブルになるリスクを避けるためにも、相続放棄をしたことを伝えておく方がいいでしょう。
財産の保存義務が生じる可能性がある
相続放棄をした後も、相続財産を占有している場合などは相続財産の保存義務を負うことがあります。
例えば相続放棄をした人が、亡くなった方の自宅で暮らし続けている場合などは
自宅の管理責任が生じます!
専門家に依頼した方がよいケース
専門家への依頼を検討した方がよいケースは、以下が挙げられます。
- 亡くなった方の財産関係が複雑で、相続放棄をするべきか判断ができない
- 仕事などで忙しく、熟慮期間内に申請手続きができそうにない
- 他の相続人との不仲などにより、話し合いが難航している
- 提出書類の不備があったときに対応する自信がない
- 裁判所からの照会書に回答する自信がない
- 相続放棄をしても、財産の保存義務が生じた場合の対処法がわからない
相続放棄を司法書士や弁護士などの法律の専門家に依頼した場合は、
およそ50,000円前後の費用がかかります。
しかし手続きの手順を誤ると、もっと大きなコストがかかる恐れもあります。
困った時は、積極的に専門家への依頼を検討しましょう。
まとめ
相続放棄をする場合の手続き方法や注意点について解説しました。
相続放棄の手続きは、裁判所や役所から取り寄せた必要書類を提出すれば自分でも出来ます。
しかし誤った判断をすると相続放棄が認められなかったり、トラブルを引き起こしたりする恐れがあるので注意が必要です。
相続放棄はあなたの人生に関わるとても重要な法律行為なので、判断に迷う事例については弁護士などの法律の専門家に相談しましょう。